つい先日のことですが、このようなニュースが流れました。ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。
NHK NEWS WEB:原発 テロ対処施設遅延なら運転停止へ 川内は停止の可能性
再稼働している原子力発電所でテロ対策の施設が期限までに設置できない見通しになっていることについて、原子力規制委員会は、期限の延長は認めず、間に合わなかった原発は原則として運転の停止を命じることを決めました。鹿児島県にある川内原発はすでに期限まで1年を切っていて、九州電力は施設の設置が間に合わないとしていることから運転が停止される可能性があります。
AFPBB News:テロ対策未完の原発は運転停止へ、期限延長認めず 原子力規制委
原子力規制委員会(NRA)は24日、2011年の福島第1原発事故を受けて導入された厳格な対テロ措置を講じていない原子力発電所を運転停止とする方針を発表した。
現在原子力発電所を稼働させるには、原子力規制委員会の認可が必要となっています。その原子力規制委員会が、原子力発電所再稼働の条件としてテロリストなどへの対策を義務付けているのですが、現在稼働している原子力発電所のその対応が遅れるかもしれない、という事でその原子力発電所が止められてしまうのでは?という事で話題になっています。厳密にはまだ稼働停止は決まっていないのですが、このままではいずれ稼働が停止してしまうだろう、という事です。
ただしこの停止も、厳密には停止命令などでは無く、稼働と並行しながら安全審査を行うようになっています。またそもそもこの原子力規制委員会が、原子力発電所の再稼働を認可する規定はありません。しかしいつの間にか、原子力規制委員会が原子力発電所の稼働を決定する組織であるかのように、なってしまっています。
現在の電気代の高騰は、そもそも原子力発電所が動いていないためでもあります。原子力発電は、安定してかつコストが安い発電方法です。しかし原子力発電所で発電が出来ない以上、火力発電などを利用して、発電をするしかありません。火力発電をする以上、燃料となる原油などを海外から輸入するしかありません。それら原油の購入費用が、「燃料費調整単価」として、私達の電気代に上乗せされてしまっています。更に再生可能エネルギー促進賦課金も上乗せされているので、電気代は以前よりもはるかに高くなってしまっています。この状況を打破するのには、原子力発電所の再稼働がもっとも手っ取り早いのですが、残念ながら今の日本では、原子力規制委員会が原子力発電所の再稼働を認めないため、電気代の高騰が続いてしまっています。
しかしそもそも、原子力発電所にテロリスト対策は必要なのでしょうか?
もちろん必要最低限の対策は必要でしょう。電気はインフラです。日常生活に欠かせないものです。それが例えばテロリストなどに占拠されてしまっては、国内の電気の供給が絶たれてしまいます。そうした事態への備えは、必要だと言えるでしょうし、もちろん既にそうした事態への備えは、されているのです。
これに加えて、原子力発電所では、海水冷却ポンプなど屋外にある重要な設備に強固な障壁を設け、その周囲にフェンスなどの柵や侵入検知器を設置する対策や、重要な区域での常時監視として一人での立ち入りを禁止する対策などのほか、作業員の身元を確認する制度の詳細も検討されています。また、福島第一原子力発電所の事故を教訓に、非常用の電源設備や冷却設備を互いに離れた別の場所に分散して配置しています。このこともテロによる安全設備の一斉破壊を防ぐことにつながります。
警察も、銃器や防弾仕様の警備車を備えた部隊によって原子力施設を24時間体制で警戒し、万一テロが起こった場合には、高度な制圧能力をもつ特殊部隊を投入できる体制を整えています。そのほか、海上保安庁でもアメリカでの同時多発テロ以降、全国17か所すべての原子力発電所を対象に巡視船を配備して警備を実施しています。日頃からの緊密な連携に加えて、テロ発生時に的確に対応できるよう、警察や海上保安庁、自衛隊等の関係機関では共同訓練も行っています。
ところで数年前に「原発に弾道ミサイルが撃ち込まれたらどう対処するのか」という事が話題になった事があります。なるほど確かに考えてみるとそういうケースも有りそうですが、実はこれはあまり現実的とは言えない心配であるようです。
日本エネルギー会議:原発にミサイル? テロ? 対策は行われている
答えを述べると、ミサイル、テロで、政府や電力会社による対策が行われている。また原発の構造上から、仮に何かがあっても、被害の広がる心配は少ない。
中略
原発の重要部分の圧力容器の大きさは、東京電力福島第一原発第1号炉(1971年運転開始の古い物。事故機)で、高さ約15メートル、直径4.7メートルだ。大きいものではない。また北朝鮮には、巡航ミサイル、航空機や潜水艦などから発射される誘導弾の配備情報はない。北朝鮮が自国から約1000キロ離れた日本にある原子炉にミサイルを直撃させることは、おそらくできない。
また国際法を調べると、1977年の「ジュネーブ条約に追加される国際武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書」によって、攻撃は軍事目標と敵の戦闘員に限定され、原発の攻撃禁止も明示されている。もちろん戦時に守られる保障はないものの、北朝鮮は戦時国際法を定めたジュネーブ条約に参加している。抑止の理由の一つになるだろう。
中略
原子力規制委員会は12年7月に施行した新規制基準で「航空機の衝突にも原子炉が安全であること」ことを発電事業者に求めた。具体的な爆発の力、エネルギー量は専門的すぎ、またテロへの支援にもなるので省略する。
日本の原発は、原則として、すべてこの規制を満たす。ある電力会社の原子力の安全担当者によれば、「もともと原子炉は9・11のようなジャンボジェット機の衝突にも耐えられるように設計されている」という。
少し長い引用になりますが、原子力発電所の原子炉はそもそも丈夫に作られていますし、小さい物なのでミサイルなどでピンポイントに狙う事は不可能なのです。
「東日本大震災の時には原子炉が壊れたじゃないか」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし東日本大震災の時には、原子炉は破壊されていません。巨大な津波により電源施設が喪失してしまったために、原子炉への注水や状態監視などの重要な機能が失われてしまったのです。という事はその経験を踏まえて、電源施設などが喪失しないように強固にしたり分散したりするなどすれば、津波への対策はできるという事になります。
確かに東日本大震災による原発事故の被害は、私達に予想以上の被害を与える結果となりました。しかしそのせいで、私達は今必要以上に原子力発電所を怖がりすぎているのでは無いでしょうか?確かに備えあれば憂いなしとは言いますが、過剰に怖がりすぎる事は、決していい事ではありません。
原子力発電を怖がるあまり、全ての原子力発電所を稼働停止させることで、私達の電気代は過剰に値上がりしました。電気を自由に使えないという事は、私達の生活を様々な面で阻害します。「計画停電」の不便さを、ご記憶の方もいらっしゃるのでは無いでしょうか。経済発展も伸び悩んでしまうでしょう。また火力発電を使う、という事は大気中の二酸化炭素濃度が増えていくという事になります。つまり環境問題に直結してしまうのです。再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電は、安定した電気を生み出すには、まだまだ発展途上の分野です。特に太陽光発電はこの数年で、そのデメリットが多く取り沙汰されるようになってきました。
原子力発電所は一歩間違えれば、大きな事故を起こすというデメリットがあります。しかしだからこそ「正しく怖がる」ことが大切なのでは無いでしょうか。「平成」が終わり、新しい時代である「令和」が始まる今だからこそ、冷静な議論と冷静な判断が求められているのだと思います。