COP26で出された石炭火力廃止の声明に日本が参加しなかった理由とは?

先日までイギリスで、COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)が開催されていました。これは国連の「気候変動枠組条約」に参加している国が集まる会議で、地球温暖化など様々な環境問題についての国際的な会議です。特に近年では温室効果ガスの排出などが大きな問題になっており、世界的に注目が集まる会議です。

その会議の中で、石炭火力発電の廃止を盛り込んだ声明が発表されました。この声明には多くの国や地域が署名しましたが、中国やアメリカ、そして日本は署名を見送っています。

JIJI.com:石炭火力廃止、46カ国・地域が署名 日米中は不参加―COP26

【グラスゴー時事】英北部グラスゴーで開かれている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、温室効果ガスの排出対策を取っていない石炭火力発電の廃止を盛り込んだ声明に英独仏や欧州連合(EU)など46カ国・地域が署名した。COP26のシャーマ議長は、4日に英政府が主催したイベントで「石炭火力の終わりが見えてきたと確信している」と強調した。ただ、石炭火力に依存する日本や中国に加え、米国も署名を見送り、対応が分かれている。

このニュースだけを見る限り、日本はこうした環境問題に対して消極的であり、これからも温暖化ガスをどんどんと排出していくようなイメージがあります。しかし実際にはそうではありません。アメリカや中国は置いておくとして、日本には特有の事情があります。

REUTERS:脱石炭火力に不参加、多様なエネルギー源活用が重要=経産相

[東京 5日 ロイター] – 萩生田光一経済産業相は5日午前の閣議後会見で、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で合意した石炭火力廃止の声明に日本が加わらなかった理由について、資源が乏しく多様なエネルギー源を活用する必要があるためと説明した。

萩生田経産相は「単一の完璧なエネルギー源がない現状では、多様なエネルギー源をバランスよく活用することが重要。そのため日本は声明に賛同していない」と語った。

萩生田経済産業大臣が説明している通りなのですが、日本には諸外国に比べてエネルギー資源が少ないという事情があります。現在でもエネルギーとなる石油や石炭、LNGなどは、諸外国からの輸入に頼っている状況です。それらはもちろん火力発電の燃料となるわけですが、その中で石炭だけでも止められてしまうのであれば、火力発電による発電量は大きく減ってしまうでしょう。発電量が減ってしまっては、日本の産業や生活などに大きな影響を与えてしまいます。

またこれはあまり知られていないのですが、現在日本の石炭火力発電は、発電の際に出る二酸化炭素量を極限まで減らしており、世界最高水準の熱効率を達成しています。

J POWER:もっと知ってほしい石炭火力発電 世界最高水準の発電効率

地球温暖化対策に貢献する高効率発電
温室効果ガスのCO2を削減するためには、省エネルギーの他に、効率的に電気をつくり、化石燃料の使用量を減らすことが必要です。燃焼によって発生するCO2は同じ電気をつくる場合、石炭は天然ガスと比べると2倍近くになりますが、日本の石炭火力は蒸気タービンの圧力や温度を超々臨界圧(USC)という極限まで上昇させる方法で、欧米やアジア諸国に比べ高い発電効率を実現しています。
仮に日本のベストプラクティス(最高水準性能)を排出の多い米国、中国、インドに適用した場合には、日本のCO2総排出量より多い約12億t-CO2の削減効果があると試算されています。
J-POWERの石炭火力発電設備は、最先端技術の開発に自ら取り組み、積極的に採用してきたことにより、世界最高水準の熱効率を達成しています。

つまり日本は既に温暖化ガスを減らすための努力を、石炭火力で行っているわけです。その上更に石炭火力を使わないようにするのであれば、これはかなりの大打撃だと言えるでしょう。

特に現在日本では原子力発電所がほとんど稼働停止してしまっており、火力発電に頼らないといけない状態です。そうした中、今年の冬の電力供給は「過去10年で最も厳しい見通し」とまで言われてしまっています。その中で石炭火力をやめることは出来ないでしょう。

この冬の電気は「過去10年で最も厳しい見通し」

もし日本が石炭火力をやめるのであれば、まずは原子力発電所などを稼働再開して、十分な電力が確保できるようになってからにするべきでしょう。そうした意味で今回の石炭火力廃止の声明に日本が参加しなかったのは、とても妥当な判断だったと言えます。