平成30年北海道胆振東部地震の停電復旧の素早さと更なる課題

平成30年北海道胆振東部地震による停電の復旧

2018年9月6日午前3時7分に発生した平成30年北海道胆振東部地震については、先日もこの工場電気ドットコムコラムページにて紹介いたしました。

先日記事を書いた段階では、全道の停電が復旧するには「少なくとも一週間以上かかる」という事でした。しかしその後、9月8日の段階で、停電はほぼ解消されることとなりました。

NHK NEWS WEB:北海道電力「道内の停電8日中にほぼ解消」

停電の復旧状況について、北海道電力は8日夜開いた会見で、残り数百戸を除いて、8日中に道内の停電を解消できるという見通しを示しました。

この中で北海道電力の真弓明彦社長は、「停電の解消に向けて企業が自家発電した電力を調達するなどあらゆる対策を進めている」と述べたうえで、道内の停電については、復旧作業に入ることができない一部地域の数百戸を除いて、8日中に解消できるという見通しを明らかにしました。

共同通信:北海道全域に送電再開

北海道電力によると、8日朝、道内全域への送電を再開した。8日午前6時現在、停電は約1万9600戸に減少した。

大変素早い対応だと思います。停電の復旧に尽力された全ての皆様に、本当に感謝したいと思います。TwitterやFacebookなどのSNSでは、停電から開放された北海道民の方々の、投稿を目にすることが出来ます。本当に嬉しそうで何よりです。

しかしまだまだ油断を許さない状況なのは間違いありません。上記NHKのリンクにも、以下のように書かれています。

一方、週明け月曜日からは、電力需要が380万キロワット余りと土日より増えるのに対して、供給力はそれより少ないおよそ350万キロワットで、再稼働させた古い火力発電所がトラブルを起こすなどすれば、さらに供給力が減るおそれもあるとしています。

このため北電は、企業や家庭に対して「できる範囲で最大限の節電をお願いしたい」と節電への協力を呼びかけました。

また世耕弘成経済産業大臣も、自身のTwitterで以下のように発言をしております。

週が明けると、様々な企業がオフィスや工場・町工場などで電気を使い始めます。そうなると現在供給可能な電気量を越えてしまう恐れがあるので、道民の方々に節電を呼びかけています。場合によっては、計画停電の可能性もあるとのことです。

北海道電力からも、同様のお知らせが公開されています。

計画停電の必要性

今回北海道の総電力の約半分の165万キロワットを発電していた苫東厚真発電所に異常が発生したため、大規模な停電となったわけですが、その苫東厚真発電所が完全には復旧できないため、多くの電力量を確保できないのが原因で、電気が足りなくなってしまう事により、計画停電の可能性が出てきてしまうわけです。しかも必要な電力量が相当ギリギリなため、かなりの節電が求められるようです。企業や工場などには生産計画などがありますから、かなり大変な事では無いでしょうか。

しかし今回の停電は夏の終わりだったわけですが、もしこれが真冬だったら一体どうなっていたことでしょうか。冬は夏よりも大量の電力を消費します。夏は確かに冷房などで電力が必要ですが、夕方になれば涼しくなって冷房の利用も少なくなりますし、また夏は日照時間が長いため、照明を使いだす時間が遅くなります。なので冷房を使うピークと照明を使うピークをずらす事が可能です。しかし真冬はというと、昼間ももちろん寒いですが、夕方から夜になるにつれ更に寒くなります。暖房を切るというわけにはいきません。また夜が長いので、照明が必要な時間もその分長くなります。つまり暖房を使うピークと照明を使うピークがどうしても重なります。そのため、電力消費量もどうしても増えてしまいます。

もちろん暖房に石油やガスなどのストーブを使うという選択肢もありますが、施設によっては対応していないところもあるでしょう。今から建物などをそうした暖房設備に切り替える、というのはスケジュール的にもなかなか大変な物があります。

なぜ停電が起きてしまったか

今回のような大停電が引き起こされてしまった原因のひとつとして、前回も書きましたが北海道にある泊原発が可動をしていなかったから、という事があると思います。

ライブドアNEWS:北海道地震、未曽有の大停電は菅直人にも責任がある

泊原子力発電所(泊村)の3基の原子炉の総出力は207万キロワット。苫東厚真火力の出力を補って余りある。しかし、泊原発は3・11後にいったんフル稼働運転をしたものの、2012年5月5日に定期点検に入り、今日に至るまで停止したままだ。そう、日本は「原発ゼロ」になったのである。

今、泊原発の原子炉内の燃料棒は全て引き抜かれ、使用済み燃料プールにおいて冷却されている。今回の地震で泊村の最大震度は2であった。そもそも、原子炉は強固な岩盤に直付けされている上に、一般の建造物に比べてはるかに厳しい耐震強度が、昔から課せられてきた。

つまり、この震度2程度の揺れでは、何ら影響を受けずに運転を続けていたはずである。そうすれば、今次の「全道大停電」は回避できた可能性が高い。ただし、「もし泊原発が再稼働していたならば」という仮説ではあるが。

苫東厚真発電所では、北海道内の電力需要のおよそ半分である165万キロワットを供給していました。一方、泊原子力発電所の総出力は207万キロワットです。もし泊原子力発電所が稼働をしていれば、短時間で小規模な停電は起きていたかもしれませんが、今回のような大規模停電は回避できていたのでは…?と思わざるを得ません。

もちろん実際に大停電が回避できていたかどうかは、詳細な検証が必要だと思われます。しかしそのような検証が無くとも、前回も書きましたとおり北海道内の電力は常にギリギリの所で供給されていました。

地震発生時の泊原子力発電所

今回の地震で、泊原子力発電所は一時的に外部電源が喪失されました。

時事ドットコムニュース:泊原発、一時外部電源喪失=非常用発電機でプール冷却-北海道地震

北海道胆振地方の地震で6日、北海道電力泊原発(泊村、停止中)の外部電源が喪失した。非常用ディーゼル発電機6台が起動し、使用済み燃料プールの冷却を継続。同日午後0時13分に3号機の外部電源が復旧、1、2号機も午後1時までに復旧した。施設に地震による異常は無く、電源喪失は道内全域の停電の影響とみられる。

なぜ外部電源が喪失したかというと、大規模な停電があったからです。停電のために電源が喪失したわけですが、非常用発電機が起動したので以後は電気が使えるようになりました。ちなみに泊原発の震度は2だったそうです。

「原子力発電所が動いていなくても、電気はギリギリで足りているから大丈夫」という事では決してありません。例えば電力需要が総電力量の98%だった場合、もしもちょっとした事でバランスが崩れてしまえば、広範囲で大停電が起きてしまうリスクを抱えています。最大時速100キロまで出せる自動車で、98キロまでスピードを出して乗っていたら一体どうなるでしょうか?最大100キロまで物を乗せる事が出来る台に98キロまで物を乗せたら、一体どうなるでしょうか?何事にも「余裕」が必要なのです。

地震発生時の太陽光発電と風力発電

ところで今回の停電のときに、太陽光発電や風力発電は一体どうなっていたのでしょうか?どうやらどちらも機能していなかったようです。

NHK NEWS WEB:風力・太陽光発電も停止 北海道電力の送電網使えず

再生可能エネルギーの事業者のほとんどは発電した電気を電力会社の送電網を使って送っていることから、送電網が使えなくなると発電や送電の停止を余儀なくされます。

特に風に恵まれている北海道は風車の設置数が全国で最も多く、風力発電の事業者に影響がでています。

126基の風車を設置し北海道電力に売電している「ユーラスエナジー」は、地震のあと風車の羽根の角度を変えて回転速度を落とし、電気を流す回路をオフにして発電を停止しました。

風車を再び動かすためには起動に使う電力を北海道電力から融通してもらう必要があり、再開のめどはたっていないということです。

地震発生が真夜中だったということもあり、太陽光発電はそもそも機能していませんでした。風力発電も北海道電力自体の送電網が使えなかったということもあり、結果として発電できなかったようです。そして発電を再開するためには、起動のための電力を北海道電力からもらわないといけないとのことです。

まとめ

今回の平成30年北海道胆振東部地震に伴う大停電は、私達に普段利用している「電気」に対する考えを改めさせてくれたように思います。特に「原子力発電所が無くても電気は(ギリギリ)足りている」というような考えが、実はとても甘い物であったと認識を変えないといけないかもしれません。

もちろん原子力発電所は何か事故があれば大変なことになるのは確かです。しかし今回泊原子力発電所では、特に事故は起きていません。どれか1つの発電方法に頼るのでは無く、原子力をベースとして火力・水力などをサポート的に使い、さらに各地域レベルでは太陽光発電や風力発電などを使っていく、というバランスを持った考え方が必要になってきていると言えるでしょう。

本当に大切なことは、「電気が必要ない生活」などでは無く「必要な電気が無くならないようにしっかりと対策をする」事では無いでしょうか。特に日本は台風や地震など、災害が多い国でもあります。「万が一」の備えることが、本当に大切なのでは無いでしょうか。

一方先日の台風21号により発生した、関西地方の停電もまだ続いてる地域があります。北海道の話題に隠れがちですが、こちらも北海道同様に、一日も早い復旧が待たれます。