電気が送れなくなる?送電線の空き容量問題について

少し前に、こんな話題がニュースになった事があります。

「空き容量ゼロ」東北電力の送電線、京大が分析すると…
https://www.asahi.com/articles/ASK9X3FPTK9XULZU005.html

簡単に内容を説明いたしますと、東北電力の発表では「電気を送る「送電線」の空き容量がほぼゼロになっていて、新しい発電を始めたくても繋げることが出来ない」という内容になります。記事中に登場する京都大学の教授の計算では、送電線に十分の空き容量があるから、東北電力の主張は間違っている、と主張しているという記事になります。果たして送電線に空き容量はあるのでしょうか、無いのでしょうか。一体どちらの主張が正しいのでしょうか?

結論を先に書いてしまうと、京都大学の教授が計算した空き容量の値が間違っているようです。

細かい計算などは難しいので省略いたしますが、京都大学の方は「送電線の理論上の最大値」を根拠にして、「送電線に空き容量がある」と主張しています。
一方の東北電力側は「送電線の技術的・現実的な最大値」を根拠にして、「送電線に空き容量は無い」と主張しているという違いです。

技術的・現実的な送電線容量の最大値とは、具体的にどういう事でしょうか。例えば送電線を鉄道に置き換えて考えてみれば分かりやすいかと思います。
電車は普段は余裕のあるダイヤになっています。首都圏であれば、1本電車が来たら、次の電車は5~10分程度空いてから来るようになっていますね。しかし通勤ラッシュ時には、2~3分間隔で次の電車が来るようになっています。通勤ラッシュ時には利用客が多いから、電車が頻繁に来るようになっていますね。
このラッシュ時の電車が「理論上の最大値」のイメージになります。一方のラッシュ時で無い平時のイメージが「技術的な最大値」だと言うことが出来るでしょう。

送電線

さて京都大学の主張どおりに、送電線に空き容量があるのだから常に理論上の最大値で電気を流すとしましょう。それは通勤ラッシュ時の電車のイメージです。確かにどんどんと大量の電気を流すことが出来ますね。しかしラッシュ時の電車は、車両故障や乗客同士のトラブルなど、ちょっとしたことで電車が止まったりします。電車が一台止まってしまうと、他の多くの電車に影響が出てしまい、結局全ての電車が止まってしまう、などという事も起きますね。
送電線も同様に、常に100%の状態で電気を流していると、停電などがあった場合、それをカバーする事が出来なくなります。電車であれば「振替輸送」を使って、他の路線で乗客を代わりに輸送することが出来ますけれど、送電線であれば、いきなり送電線を増やすことは出来ないので、振替輸送のような事は出来ません。また常に100%で運用していたら、電気を止めることも難しくなりますので、送電線のメンテナンスをする暇もありません。

一方技術的な最大値で電気を流すのであれば、送電線内に余裕ができます。例えば送電線のどこかが切れてしまったとしても、他の送電線内にまだ電気を流す余裕があるので、そこを使って電気を流すことができます。つまり電気の「振替輸送が可能である」という事ですね。電気振替輸送が可能であれば、停電などの災害にも対応可能ですし、またメンテナンスも容易に行う事が出来ます。

つまり送電線の空き容量は、あらかじめある程度の余裕を持って管理されている、という事になります。でも何か起こった時のために備えておく、という事はとても大事ですよね。特に電気は、使用する時と使用しない時の差が大きいものですので、ある程度の余裕とバランスを見て運営するのは、とても大事な事だと言えるでしょう。

送電線

もちろんいつまでも送電線に空き容量が無い状態というはまずいですし、実際には現状でもかなり余裕を持った容量で送電量がつくられているのだと思います。どうしても空き容量が無いのであれば、送電線などをどんどんと増やしていくしか無いでしょう。「今ある物だけでなんとかする」というのは、実はとても危険な考え方です。また普段緊急用に空けてある送電線の領域を更に細かく活用して、送電量を増やすという方式も近年新しく考えられてきています。

この辺りは今後の電気インフラの普及、また技術的な改善が見込まれる分野でもあります。さらなる発展・開発に期待したいところですね。