電気を起こす発電方法の内、いくつかの発電について書いてきました。今回は原子力発電について書いていきたいと思います。
原子力発電の仕組み
原子力発電の仕組みですが、簡単に言ってしまうと、火力発電所のボイラー部分を原子炉に置き換えたものになります。
火力発電では石油や石炭などの燃料を燃やして、その熱を使ってボイラーのお湯を沸かし、高温・高圧の蒸気を作ってタービンを回します。
原子力発電では原子炉内でウランを核分裂することで得られる、大量の熱エネルギーを使い水を沸かし、その蒸気でタービンを回して発電をします。
原子力発電が火力発電と最も違うところは、燃料に石油や石炭などの燃料を使わずに、放射性物質であるウランを使っていることでしょう。では具体的にどうやってウランで大量の熱を得ているのでしょうか?
核分裂の仕組み
原子力発電で最も良く使われる核燃料は、ウランなどです。何故使われやすいかと言えば「核分裂を起こしやすいから」です。
核分裂について、本来であれば原子の構造から説明しないといけなのですが、ここでは詳しくは省略いたします。以下ページを参考にしてください。
さてウランには「ウラン235」と「ウラン238」の二種類があります。この内発電に必要な「核分裂」を起こしやすいのは、ウラン235になります。しかしウラン235は元々存在する量が少ないので、核分裂しやすい「ウラン235」が約0.7%、核分裂しにくい「ウラン238」が約99.3%含まれている「低濃縮ウラン」というものを使って、発電用のウラン燃料にします。
核分裂ですが、このウラン235の原子核に中性子を当てることで起こすことが出来ます。ウラン235の原子核に中性子を当てると核分裂を起こし、その際に同時に新しい中性子を2~3個生み出します。その中性子が別のウラン235に当たることで、連続して核分裂が起きる仕組みになっています。
核分裂しないウラン238が中性子を吸収すると、プルトニウムが生成されます。このプルトニウムも中性子が当たることで核分裂を起こします。原子力発電の原子炉の中では、ウランとプルトニウムが同時に発生していることになります。
そして大事なことなのですが、この核分裂の際に同時に大量の熱エネルギーが発生するのです。ウラン235が1グラムあれば、石炭だったら3トン、石油だったら2000リットルに相当するエネルギーが生まれるので、火力発電とは段違いのエネルギーが発生することになります。
原子力発電というと、原子爆弾と同じような物なのでは無いかと考えておられる方もいらっしゃいますが、実は全然違うものです。原子力発電ではウラン235はウラン燃料の約0.7%にすぎませんし、ゆっくりと核分裂反応を起こすことで熱エネルギーを得ています。一方の原子爆弾は、ウラン235をほぼ100%にまで濃縮して一気に核分裂を起こします。
ですので原子力発電所の原子炉は原子爆弾とは違って制御しやすいですし、そもそも構造自体が全く別ものなので核爆発なども起きないようになっているのです。
原子力発電のメリット
原子力発電のメリットですが、上にも書いたように1グラムのウラン235で石油2000リットル分の熱エネルギーを得ることが出来ます。ですので燃料の購入・輸送・貯蔵にコストがかかりません。安価で大量の発電が出来ます。
またウランは紛争などがそれほど起きていない国で採掘されています。ですので安定した確保が可能です。また使い終わった燃料も再処理をすることで、再び燃料として使用することが可能です。つまり電気の安定的な供給が可能になります。
そしてこれが火力発電との一番の違いなのですが、原子力発電では二酸化炭素などの温暖化ガスを排出しません。ですので地球温暖化対策としてはとても優れた発電方法となります。
原子力発電のデメリット
一方原子力発電のデメリットですが、やはりなんといっても放射線の問題があげられるでしょう。福島第一原発の事故は記憶に新しいところですが、何かひとつ大きな事故などが発生した場合、周囲に放射線や放射性廃棄物を撒き散らしてしまう、という問題があります。またそれらの廃棄物は特に、毒性が無くなるまでもとても長い年月が必要となってしまいます。温暖化ガスによる環境汚染は無くとも、こうした放射性廃棄物などによる環境汚染のリスクを抱えています。
また事故が起きてしまった場合、その修復にも時間がかかってしまいます。その分のコストを考えると、発電部分のコストがどんなに少なく済んでも、トータルとして見れば火力発電の方が良いのでは無いか?という意見もあります。
原子力発電の課題
原子力発電はとてもコストが安く済み、また大量の電気を得ることが出来るというとても素晴らしい面があります。しかし一度何か起これば、大規模な被害が発生してしまうのもまた事実です。これをどう考えていくか、というのはとても難しい問題です。
現在日本では福島第一原発の事故の影響で、ほとんどの原子力発電が止まってしまっています。確かにあのような事故を見てしまった後では、とても怖くて運転できないという気持ちは分かります。しかし日本の電気を賄うために、結果として海外から大量の石油を高い値段で購入し、解体寸前に古くなった火力発電所をメンテナンスもせずに使い、大量に温暖化ガスを排出して電気を起こしている、というのはさすがに本末転倒な気がします。そうした燃料の購入費などは、私たちの電気代に上乗せされてしまっているのです。
また原子力発電が止まってしまってから、年月が経ってしまい、原子力発電を動かすことが出来る技術者が減ってしまっている、という問題もあります。これではいざ原子力発電所を動かそうとなった時に、かえって危険では無いでしょうか。
確かに事故は起きてはいけないものですが、逆に克服する事も可能です。事故を教訓にして、どうすれば事故が起きないようになるか、どんな対策を施せばいいのか、という事を考えていくことこそ大事なのでは無いでしょうか。ただ感情的になって原子力発電を止めてしまえばいい、という事こそが無責任だと言えるのでは無いでしょうか。
最後に
もちろん原子力発電には、高いリスクがあります。いつまでも原子力発電に頼っていてはいけないでしょう。しかし原子力発電に替わる有効な発電方法がまだ完成していないというのもまた事実なのです。いわゆる再生可能エネルギーでは、まだまだ原子力発電所分の発電をとても補えるまでに達していません。原子力発電に替わる有効な発電方法が見つかるまではある程度原子力発電を使っていき、それで節約できたコストで、新しい発電方法や安全な原子力発電の方法などを研究していくのが、結果的に一番いい方法なのでは無いでしょうか。
福島第一原発の事故から、7年が経ちました。原子力発電について、感情的でない冷静な議論が求められている時期が来ているのでは無いでしょうか。