先日までスペインのマドリードで、COP25が開催されていました。このCOP25とは、地球温暖化対策のための会議で、世界中から190近い国や地域が参加しています。温暖化対策としてもっとも肝心なことは、いわゆる「温室効果ガス」の排出をどれくらい減らせるか、ということにあります。
しかし温室効果ガスは様々な製造活動の段階で、排出されます。温室効果ガスを制限するということには、経済活動を縮小せざるを得ないという問題がついてまわってしまうのです。経済の停滞はそれこそ一般市民にとっては、死活問題だと言えるでしょう。
そういった中でも特に、火力発電によって発生する温室効果ガスはその排出量も多く、問題として上げられます。また火力発電の中でも、特に石炭を使った火力発電は、大量に温室効果ガスを排出するということで、全世界的に縮小傾向になっていますが、実は日本ではこの石炭による火力発電所の建設が、増えてきているという話があります。
朝日新聞デジタル:止まらぬ石炭火力発電 「事業者はリスクに気付いて」
温室効果ガスの巨大発生源となる石炭火力発電所。じつは日本国内で石炭火力発電所の建設ラッシュが起きています。早急に歯止めをかけるべきだと訴える環境NGO「気候ネットワーク」の東京事務所長・桃井貴子さんにその問題点を聞きました。
――石炭火力発電所の建設は日本でどのぐらい進められているのですか。
「私たちが把握しているものとしては、東日本大震災の翌年の2012年から今年9月末までの期間で、計50基・約2300万キロワット超もの計画があります。このうち、すでに稼働したのが8基、建設中が15基です。一方、地元の反対などで中止されたのは7基。残りの20基ですが、環境への影響を予測・評価する環境アセスを終えたのが5基、環境アセスを進めているのが12基、不明が3基となっています」
ここに書かれているように、この数年間で新規石炭発電所の建設計画が、およそ50基近くもあるというのです。この話を聞くと、確かに大変なことをしているように思うのですが、実際には石炭火力発電は、以前に比べ随分とクリーンになってきているそうです。
経済産業省資源エネルギー庁:なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み
最近の石炭火力発電は、ずいぶんクリーンになってきています
一方で石炭には、地球温暖化の原因とされるCO2を排出するという、環境面での課題があります。単位あたりで見たCO2排出量はほかの化石燃料に比べても多いため、利用するためには色々と工夫をしていくことが必要となります。
その工夫の一つとして、石炭火力発電の技術開発が進められています。石炭火力発電というと、皆さんのイメージの中には、もくもくと真っ黒な煙をあげるものというイメージがあるかもしれません。しかし、最近の石炭火力発電は、環境にかける負荷がずいぶんと減ってきています。たとえば、横浜市にある磯子石炭火力発電所は、「クリーンコール技術」とよばれる技術を活用し、大気汚染物質の排出を大幅に削減しています。2002年のリプレース(建て替え)前に比べると、窒素酸化物(NOx)は92%、硫黄酸化物(Sox)は83%、粒子状物質(PM)は90%減っています。
このように技術の進歩により、石炭火力発電でも以前より環境汚染が抑えられてきています。そして日本が石炭火力発電などを使わないといけない最大の理由としては、現在日本では多くの原子力発電所が稼働を停止しているから、ということが上げられます。
このコラムでも何度か書いてきておりますが、2011年の東日本大震災に伴った東京電力福島第一原発事故により、日本の原子力発電所はそのほとんどが稼働を停止させられてしまいました。そして実は原子力発電所は火力発電とは違い、温暖化ガスを排出しない発電方法なのです。日本でこれ以上石炭火力発電を増やさないためには、原子力発電所を再稼働させるのが、最も手っ取り早い方法なのです。
先程の記事の中で「現在50基もの石炭火力発電所の建設計画がある」と書かれていましたが、これは2012年から2018年の間のデータ、つまり原子力発電所が稼働を停止している間の話です。原子力発電所が動かせないのですから、その代わりとなる発電所を建設しないといけないのは、ある意味当然のことと言えるでしょう。そしていわゆる再生可能エネルギーに関しては、まだまだ発電量が不安定であったり少量であったりという事情もあります。そのような中で新規に発電所を建設するとなると、火力発電所が選ばれてしまうというのは、ある意味当然の流れだと言うことができるでしょう。そうした現実を見ないで、ただ「日本は石炭火力発電を増やしている!」と言ってしまうのは、少々無責任のような気がします。
とは言え、いつまでも原子力発電に頼ってばかりいられないのも、また現実だといえます。一日も早くよりクリーンで効率の良い発電方法を生み出し、少しずつ発電所を入れ替えていくしか方法は無いといえるでしょう。