9月28日にこのような記事が朝日新聞に掲載されました。
国が2024年度に始める電力市場の新制度で、最大1・6兆円の国民負担が生じることになった。7月にあった新市場の入札結果が今月公表され、価格が当初想定の1・5倍に膨らんだ。国側は「想像していなかった」と戸惑い、制度ルールの一部見直しを始めた。
1・6兆円は最終的に電気料金で回収されるため、単純計算だと1キロワット時2円の上昇要因。平均的な家庭(月260キロワット時)の場合、1カ月500円ほどの値上げにあたる。
この記事を読んで、皆さんはどう思ったでしょうか?「このままでは電気代がまた値上げだ!大変だ!」と思われたかもしれません。確かにこの記事を読むだけでは、そういう感想になってしまうかもしれません。では次にこの記事を読んでみてください。
U3 Innovations:【記事解説】朝日新聞の容量市場に関する記事について
結論から申し上げると、この記事のタイトルは間違っています。
拙著『エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ』では、電気のもつ3つの価値、すなわちkWh、kW、⊿kWについて説明していますが、 容量市場はそのうちkW価値の対価と対価を支払う対象を決める市場です。今般のオークションの約定総額の1.6兆円は、電力供給コスト全体の中で、kW価値を提供する対価の総額が1.6兆円という意味です。これは電力供給コストの内訳が明確化されたものであって、1.6兆円の新たな国民負担が生じるわけではありません。
当該記事には「平均家庭 月500円相当」とも書かれていますが、これも例えば「新聞の月極購読料4,900円のうち、500円は新聞社が印刷会社に支払う費用相当である」という意味で、新聞代が月500円値上がりするという意味ではありません。
つまり「1・6兆円」のほとんどは、既に電気代として支払っていて、既存の電気料金に組み込まれているのです。それがそのまま「1・6兆円」の電気代値上げ、という事にはなりません。あくまでも「負担の仕組み」が変わるというだけで、私達が負担する総額は全く変わらないのです。つまり元の朝日の記事は、ハッキリと「ミスリード」だと言えるでしょう。
こちらの記事でも「誤解招く」と書かれております。
電気新聞:約定価格、高値で波紋/仕組み、どこまで理解?誤解招く需要家負担
容量市場の約定価格を巡り、小売電気事業者などから不満の声が出ている。コストが電気料金に転嫁される前提で、需要家負担の大幅増につながると批判する閣僚も現れた。だが、本当にそうだろうか。容量市場は、本来負担すべき電源固定費を支払っていない「フリーライダー」に費用分担を求める仕組み。需要家の負担増という表現は、容量市場の仕組み自体に誤解を招きかねない。しかも、分担額は過去1年間の卸市場価格の下落によって、フリーライダーが手にした利益でほぼ賄える水準だ。
容量市場の入札は7月、2024年度に全国9エリアで必要な供給力を確保する目的で実施された。約定量は1億6769万キロワット、価格は1キロワット当たり1万4137円だった。
とは言え実際問題、今まで電気代は様々な要因で値上げを続けてきているのも事実です。現在は原油価格が安くなっているので気づきにくいのですが、もしこれでまた原油価格が上がるようであれば、それに伴って電気代も値上がりをします。そうした中でああした記事を見てしまえば、「また値上げか?」と思ってしまうのも、仕方ないことかもしれません。
だからこそ、安定した電気代値下げが期待できる、「基本料金部分の値下げ」に今のうちに切り替えておくという事が大切だと言えます。電気代基本料金は一度下がれば、後でまた上がることはまずありません。むしろ更に下がる可能性すらあります。
こうした「電気代が上がる」という記事に一喜一憂せずに、今現在確実に電気代が削減できる方法を取って備えておく、という事がなにより一番大事なことでは無いでしょうか。